「地域猫問題は人の問題」 「勝手な解釈の地域猫」の広がりによって大きな誤解が生じる」

公益財団法人 神奈川県動物愛護協会

常務理事 黒澤泰(元横浜市職員)

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2017年3月、神奈川県横浜市で36年間、異例とも言える長期間動物業務に従事、地域住民の間に入って「地域猫」という言葉を世に送り出し、「『地域猫』のすすめ」の著者でもある 黒澤泰(60)さんが横浜市神奈川福祉保健センターを定年退職された。黒澤さんは獣医師免許を取得後、横浜市役所に公衆衛生獣医師として入職。公衆衛生獣医師とは獣医師として、「食品安全と動物福祉の確保、感染症対策」をする仕事だ。そこで食品の安全を担当したかったという黒澤さんが任されたのは保健所での「動物の保護と管理」だった。

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黒澤さんが横浜市に入職した1981年、保健所勤務として苦労したのは何よりも「住民からの苦情対応」であったという。「隣の犬がうるさい」「犬を逃してしまった」その多くが「糞尿、騒音、ゴミを荒らされる」といった内容が多数を占め、その他に「捨て犬、捨て猫」問題があった。現地に出向き、話を聞いてみると、最初は犬の声の問題だったはずが、いつの間にかそのほとんどが「住民同士の問題」であることが多く、その仲裁に入ることがとても大変だったそう。

そんな折、1994年、横浜市磯子区で黒澤さんは野良猫問題に向き合うようになったという。当時の磯子区はいままでの苦情とは違い、行政の指示の元、町内会が一丸となって野良猫問題に向き合ってくれたのだという。そこで生まれたのが「地域猫」というものだった。地域猫とは野良猫が繁殖しすぎないよう不妊去勢手術を行う、排泄などのしつけをするなどして、地域ぐるみで世話をする、特定の飼い主のいない猫のことだ。

この「地域猫」の名付け親が黒澤さんである。

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黒澤「実際にネコの糞尿被害などに困っている地域の方が行政側に相談を行い、「地域猫」への取り組みを、一丸となり実施した地域への効果は絶大でした。実施してみるとネコの数が増えず、行動範囲が狭まり、フンやエサの管理がしっかり出来れば、三年後には必ず成果が表れました。ネコの被害で困っている人も納得できる結果がでたのです。」

▲地域住民が一丸となり取り組んだ結果、効果は絶大だった。

黒澤「町中に存在しているネコは昔から何も変わっていません。もともと家がなかった場所で、ネコが生活し続けていたところに、あとから家が建ったというだけで、もともとネコのトイレだった場所に後から住み始めた。人間にとっては、自分の住む家でネコに排泄されたりするのはもちろん嫌なことだとは思います。しかし、ネコを排除して解決するのではなく、人間の生活環境を考慮し、地域の中で妥協点を探しながら共存していく方法は必要ですよね。また、「地域猫」への取り組みで得られるもう一つのメリットは、地域住民同士でよく話し合うことから生まれるコミュニケーションに役立つことです。ノラ猫のことばかりではなく、防犯、防災、環境美化、高齢者福祉、子供教育等の地域の活性化、地域力の掘り起こしにつながっていくのです。これは立派な町づくりへ発展していくのですよね。いまは隣人でも話したことがないという人が多く、地域のコミュニケーション不足は深刻です。」

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黒澤さんは磯子区での成功例を用い、新たな野良猫苦情が入ると現場に出向き、「地域猫」への取り組みを説明してきた。しかし、「地域猫」の話をすると住民からは「外でエサを与えることを認めるのか」「時間が掛かり過ぎる。すぐに解決させろ」「外暮らしは危険なのに勧めるのか」「誰がお金を出してまで世話するのか」「理想論にすぎない」等、一方的な苦情や解決策を求めるだけで、行政と一緒になって取り組む地域が少ないのも現状だ。

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黒澤「いくら行政が市民と一緒になって解決しようにも、飼い主のいないネコの問題は、そのネコについて問題に思う地域の人たちの協力がないことには解決ができません。誰かがやればいいという人任せの押し付け合いが起こる地域では結局解決しません。犬には狂犬病の発生を予防するために狂犬病予防法で飼い主の飼育管理、行政の対応等が明確に示されていますが、ネコには明確な法規制がないため、飼い主も行政も極めて曖昧に対応しているのが現状。ただし、ネズミ捕りとして放して飼う歴史を持つネコを直ちに犬と同じ法で規制管理し、一方的に捕獲し、処分するだけというのはかなり強引な手法ではないでしょうか。」

黒澤さんは続ける。

黒澤「また、私たちが作ってきた「地域猫」という言葉もインターネットの普及で情報だけが広がってしまって、「地域猫」という言葉がどれも自分の都合の良いように受け取られているようなので、それも新たな問題を生んでいると感じています。」

黒澤「もう私は20年以上、ずっと同じことを言っているのですが、野良猫が害獣かどうかはそこに住む人たちが決めること。ネコがそこに10匹いようと、ネコがそこにいてもいい人にとっては何の問題でもないのですが、1匹でもネコが存在することが嫌だという人がいるだけでたちまちそのネコは「害獣」にされてしまうのです。」

黒澤「また、野良猫に可哀想だからといって、単にエサだけを与える、手術のみしている、周辺地域住民の理解を得ていないものは、猫好きの自己満足、地域への押し付け。「地域猫」という言葉だけが独り歩きしている感があります『エサやり』という批判をかわす手段として正当性を主張する目的で利用する人、自分では世話できないから住民に押し付けている人が多く存在しています。「勝手な解釈の地域猫」の広がりによって大きな誤解が生じ、「真の地域猫」を目指している人達への風当たりも強く、数々の事業や活動の推進にも影響が出ています。ネコ愛護者の視点でいうと、飼い主がいないためにエサや寝る場所に不自由して可哀想、何とかしてあげたいとの思いから世話を始める。これは人間の本能なのですが、世話をしていない人にまでも「可哀想なノラ猫のため」という自分の思いを押し付けようとするから反感をかってしまいます。それでも強引に進めていく一部の人達の存在が、間違った方向へ行ってしまうため、ますます協力を得られなくなります。」

黒澤「地域の中には、ネコの嫌いな人や迷惑と思っている人等、いろいろな思いの人が生活しています。ここで周りを見る余裕を持って、迷惑を受けている人や嫌いな人と妥協点を話し合い、周辺住民の理解を得た上でノラ猫を迷惑にならない飼い方で管理し、トラブルの発生を予防しながら共存していけば良いのです。ノラ猫のことを単に「地域猫」と呼ぶ活動ではなく、不妊去勢手術を実施し、エサの管理を徹底し、フン清掃だけでなく周辺美化にも配慮して住民の理解を得ながら、いま外にいるノラ猫をレベルアップして地域猫にする一方で、飼い猫は不妊去勢手術する、外に出さない、捨てない等、飼い主がしっかり管理できれば最終的にノラ猫が外からいなくなり、屋内飼育猫だけになるのでそれまでの過渡的対策なのです。」「真の地域猫」をより多くの人に広めること、知ってもらうことが課題。私も「地域猫」を世に送り出した人間として、勝手な解釈の間違った「地域猫」の広がりには責任を感じます。時間が許す限りどこへでも出かけて行き、より多くの人達に理解を求めたいと考えます。」

黒澤「人間は、快適に生活できることを望んで住みやすい環境を整備し、便利な都市を作り続ける一方で、ネコにとっては随分「生きにくい」環境になったと思います。昔と違って交通量も増加し、外でネコを飼うことは極めて危険な状態に変わってきました。実際に車にはねられて死亡しているネコの数は、安楽死処分している数よりはるかに多いのです。これからネコを飼育しようとする人は、完全屋内飼育をするべきですね。現在何もノラ猫対策が無いのならば、「地域猫」の考え方を実践してみる価値はあるのではないでしょうか。ただ、飼い主がいないのだから、嫌いだとか迷惑だとか言うのであれば自分たちで動くしかないと思います。住んでいる周辺住民みんなに影響があるのだから、地域ぐるみでの取り組みが効果的なのですが…先日の毎日新聞の記事でも、野良猫=地域猫という考えで書かれていました。地域の理解と管理が出来てはじめて地域猫ですから、迷惑だけの野良猫と一緒にひとくくりにされてしまうと理解されません。正しく伝えてほしいものです。」

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環境省も、不妊・去勢の手術をして、緩やかに野良猫を減らす方策として地域猫を位置付け、2010年には磯子区などの先進例を参考に、全国版のガイドラインをつくったが、黒澤さんもまた、公益財団法人神奈川県動物愛護協会から「動物福祉検定」テキストの製作を現在も積極的に行っている最中。「動物福祉検定」は2017年2月5日に初めて行われた。

黒澤「動物への福祉は動物が好きか嫌いかで行うものではなく、また、個人的な感情や考えで動物に対するのではなく動物の生態や習性を学び、客観的な判断ができる事が大切。動物に関わる問題は、単に動物そのものの事でなく、人の生活に密接に関わる部分が多く、動物が人間社会に組込まれているが故の社会的な問題と言い換えることができます。これからの日本で、個人的な感情に左右されぬ基礎知識や思考の構築、動物の種による適正対応の違い、公衆衛生の観点なども含めた動物への対応を学ぶことができるこの検定は、初級検定、中級検定を経た後、「動物福祉士」という実践的な指導のできる方々の養成を目標として進めます。たくさんの皆様にご参加頂けることを願っております。」

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公益財団法人 神奈川県動物愛護協会

常務理事 黒澤 泰 (くろさわ やすし)

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1979年、麻布獣医科大学獣医学部獣医学科卒業。

横浜市役所に食品衛生監視員として入所し、食品衛生業務に従事するとともに狂犬病予防員、動物愛護指導員として地域で発生する動物問題を解決するために最前線で対応する。

1990年、衛生局公衆衛生課動物保護管理係を経て

1995年、磯子保健所への異動を期に、人と猫が共存できる街づくり事業を打ち出し「地域猫」の考え方を全国で初めて行政として発案実施する。

2001年より西区福祉保健センター(旧西保健所)でも、「猫トラブル『0』をめざすまちづくり事業」として、地域猫事業を展開する。

2007年より神奈川区福祉保健センターにて、「地域猫で人の輪づくりまちづくり事業」として住民に馴染みやすい「地域猫事業」を実施する。

2011年より港南区福祉保健センターにて「人と猫の共存するまちづくり事業」を実施する。

2014年より再度神奈川区福祉保健センターにて「飼い主のいない猫の問題対応事業」として、地域猫活動を地域住民へ普及した。

2017年3月の定年退職後、公益財団法人神奈川県動物愛護協会常務理事として、動物愛護だけではなく動物福祉も視野に入れた活動を展開している。

全国からの講演、セミナーの依頼に応えて、北は札幌市から南は沖縄県、石垣島まで出向き、その数は200回を超えている。

著書:「地域猫のすすめ」

ノラ猫と上手につきあう方法  (文芸社)  2005年11月

......取材協力......

公益財団法人神奈川県動物愛護協会

〒222-0024 横浜市港北区篠原台町6-41☎:045-421-5592Fax:045-433-1742

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東京犬猫日和

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Kanagawa Society for the Prevention Cruelty to Animals(KSPCA)

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