【命を無駄にしない、やたらな猟師を増やさない、里に下りてくる動物たちを減らしたい〜里山の現実と向き合う〜】

「猟師」というとどんなイメージを持つだろうか。

動物が好きな人にとって、殺生に関わる事は、できれば見たくない、聞きたくない、避けたい、触れたくない部分ではないだろうか。殺生に関わることのない私たちの日常生活。

実際には、きれいごとでは済まされない部分が多くある。

肉食動物をペットにしている私たちの中には、もし、ご自身が「動物の肉」を控えていたとしても、ペットには肉を与えている人は少なくないだろう。いまやペットフードにもベジタリアンフードが登場しているが、それがやっとのことで浸透してきた日本、実は遅れている。

スーパーに並ぶ加工肉。綺麗なパッケージに入り、美味しそうに調理され、販売されているフードを何の躊躇もなく購入している私たち。その裏では他人の手によって、多くの命が失われている現実がある。

極論を言えばきりがないのだが、私たちが過ごしている「当たり前の生活」。

一度足を止めて考える機会になればと、今回、里山への取材に行ってまいりました。

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のどかな風景が広がる里山。

一歩足を踏み入れると、そこには多くの問題が山積していました。

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【山で見てしまった現実、害獣駆除で処分されてしまった鹿たちをみて、考えるようになった】

山梨県甲州市。ぶどう、もも、柿、ざくろ、りんご、栗、梨、など古くから果樹栽培が盛んに行われていた地域。東京都心から2時間とかからないこの地に「シカ肉のペットフード」を作りはじめた猟師がいる。

樋山さんは、2011年2月、東日本大震災の一ヵ月前に甲州市地域おこし協力隊として甲州市へ移住してきた。

移住当時は、良くありがちな地方の自給自足的な暮らしに憧れて移住した部分があったが、実際に住んでみると見えなかった部分が見えてきたという。

それまでは都内の金融情報通信社に勤め、都内の仕事の傍ら、週末には社会活動として、間伐という山を整備するボランティアで山に入っていたというが、足を踏み入れるたびに、山で 『害獣駆除』で処分されてしまった鹿たちを目にしたという。

「無益の殺生はいかがなものか」と考えるようになった樋山さん。

樋山さんは山梨に移住してきた以上、「現実と向き合おう」と、地元の信頼できる猟師の元へ足を運んだ。当時は当然ながら「自分が実際に動物に手を出すことはしたくない」、でも「自分の目で現実を見よう」と、猟師と一緒に山に通ったのだそう。

1年目は猟があると、とにかく猟師さんと一緒に山に通った樋山さんは、

2年目頃から、「違和感」を感じるようになったと言います。

..........樋山さんが感じていた違和感とはなんだったのでしょうか。

樋山「僕が感じていた違和感。それは命を取らない人ほど、鹿を減らせ、鹿を獲れと言うんですね。勝手なもんです。山梨県だけで推定7万頭余りの鹿がいる。これを3~4千頭に減らせというのです。これじゃ絶滅させろと言うのと同じ事です。僕は害獣という呼び方も実は抵抗があって昔、獣たちは山の奥深くにいてその肉は貴重な蛋白源でした。実際、血の一滴まで無駄にせず頂いたそうです。その命はとても尊いものだったのです。それが、今じゃ正直なところ、山に入ると本当にたくさんの鹿が捨てられています。人目につかないだけなんです。僕に狩猟を教えてくださった猟師グループは山の中に放置は絶対にしません。それは、法律で放置することを禁じられているからだけではなく、これまでを生きてきた鹿に対するせめてもの供養なんです。今じゃ週末になったら山に入ろうとかのスローガンで、にわか猟師が山に入ります。

山梨では猿、猪、鹿が主な害獣ですが、特にこの地域は鹿の農作物被害が多く、獣害として駆除された「利用価値の無い鹿」は埋設といって土を掘って埋めなくてはなりません注:鳥獣法第十八条(鳥獣の放置等の禁止)

大きな鹿の埋設は、歳を重ねた猟師にとり、かなりの重労働。僕は実際に駆除された鹿がそのまま山に遺棄されていたのを目にしたこともあり、なんとも言えない気持ちになりました。

農家や林業家にとっては害獣ですが、本来、猟師にとって獲物は「食する対象」が原点なんです。昔はいまのようにいつでも肉を口にするようなこともできなかったため、獲物は貴重なものでした。そして猟師自身も厳しい自然の中で、命がけで大きな獲物と対峙し、命を取ることをしてきました。

しかしいまは害獣駆除という狩猟をしなければならないことはまた本来の「猟師」としてそれているのではないかなと思います。綺麗事を言うようですが、当然ながら僕が自分で殺生することはとても嫌でした。

それでも「駆除をしなければならない現実」を自分の目で見ることで、あちこちで増える「にわか猟師」、または「狩猟そのものを道楽とするような猟師」、そのような人たちに動物たちが「駆除」という名目でいたずらに殺されるなら、動物たちにせめて、苦痛を最小限にし、獲った命は無駄にしないように最初から最後まで、僕自身が携わろうと思いました。」

樋山「自分自身が猟師になったことで、動物との無言の会話も増えました。いのちをとることは決してたやすいことではありません。楽しいものでもありません。

そして、面白半分にネットに動物の死骸の写真をあげるような馬鹿げたことはして欲しくないし、命の尊さを自分で感じながら決して無駄にしてはいけないということも伝えたい。

また、猟師が害獣駆除ではなく、大切なのは先輩猟師から引き継ぐ礎の根っこの部分本当の猟師は命を頂くことに後ろめたさを感じているのではなくて、命を無駄にしていることに後ろめたさがある。捨ててしまっているシカを何とか活用出来れば、猟師にとっても無益の殺生とはならない。捨ててしまっているシカ肉を自分の手で最初から最後まで。ペットフードとして活用しようと考え、構想から4年以上かかりました。駆除された鹿でペットフードを作ることは、けして利益追求で楽しんでいるわけではありません。命を無駄にするくらいならという思いからスタートしたもの。また、同時にペットフードの勉強もしました。自分の手で全てをみている僕だからできることがここにあると思いました。

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お山は神聖なところ。そこに棲む獣は尊いものお山を再生して、獣たちをお山に還してあげたい】


▲撮影:樋山さん

樋山「昔はそれこそ山の奥深い所が猟場だったらしいんですが、今は人里近くが猟場となっています。こうやって見てもそこら中にシカの通り道がいくつもあるのがわかりますか?1つの群れは10頭前後、最大になると30頭を超える群れが通るので自然と道が出来ます。鹿だって好き好んで人里に下りてきたわけじゃないんです。

暗い部分影になっているのは杉、ヒノキの人工林。

▲実際山に入ると薄暗い人工林の足元には日の光が差し込まず、動物たちの餌になる草や木の芽が生えてこない。いわば「山のゴーストタウン」こうした暗い「針葉樹で覆われた人工林」が動物たちの食べ物を奪っている。

▲人の手が加えられていない場所は陽の光も入り、多くの生き物の命を育んでいる。

▲樹齢数百年以上であろう巨木もあり、この一帯は神聖な空気に包まれていた。

樋山「戦後住んでいた原生林がどんどん伐採され、代わりに獣たちの住めない杉やヒノキの人工林がどんどん増えた。住宅用の木材ってやつですが、すぐに安い輸入材が入ってきて無用の人工林になってしまった。ダムが建設され、電波塔ができ、今はリニアの為にわざわざ柏崎から引いてきた送電線が張り巡らされています。山の獣たちは住むところを追われて人里に出てきたら美味しいものが沢山あって、これはいいと食べたら害獣と呼ばれるようになってしまった。獣たちが人里に下りてきたのではなく、山から人間が追い出したのですね。」

樋山「いつか、僕は山を昔のように生き還らせて、ゆくゆくは彼らを山に還してあげたいと思っているんです。時代の移り変わりとともに、僕の時代が来たら僕は猟銃を置いてこの地で動物との共存共栄を守っていきたいです。命を無駄にしたくない、やたらな猟師を増やしたくない、山を良い状態に戻し、自然な形での動物との境界線を作ることで里に下りてくる動物たちを減らしたい。東北の震災後は明らかに人の考え方が変わって、地方に移住しようと考える人が増えてきました。何年か、かかるかもや知れないけど、今こそ本当の意味での共存共栄を考えていかなければと思います。」

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《編集後記》

戦後、人間がしてきてしまったこと

動物が人里に下りてくるまでのこと

そこに住む人々の暮らし、食のこと、自然と動物の付き合い方、共存共栄とは….神聖なお山の中で命の息使いを感じながらお話を伺ってまいりました。

近年、「ジビエ」や「狩猟」という言葉を耳にする事が多くなり、ペットフードとしても最適なシカ肉。それが、山中に大量に遺棄されているという現状。今回の取材で、そこに至るまでには、戦後私達人間が自然に対してしてきた多くのことがあることがわかりました。

お山のこと、都会の犠牲になった地方のこと、代々伝わる先輩猟師さんの気持ち…都会にいては知る事のできない貴重なお話をたくさん聞くことが出来ました。

樋山さんに案内された今もなお生き続ける原生林の中で、深呼吸をしたら、私達が次世代に伝えていかなければならない本当のものが見えた気がしました。

おまけ:帰り際、取材に同行したラブラドールのかりんさん、川でご褒美タイムを堪能。

農耕期でもあるお忙しい中、笑顔でお付き合いいただきありがとうございました。

SatoYamaStyle  代表:樋山太一

HP:http://www.wansama-nyansama.com

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東京犬猫日和

Writer:Osamu Tetsuiwa

Correction:Emi Sekiguchi

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