【2020年までに全国の犬猫殺処分をゼロが大きな目標〜ピースワンコ・ジャパン〜】

昨年末、広島の神石高原町に本拠地のある認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」が、運営するプロジェクト「ピースワンコ・ジャパン」の1つとして、常設の保護犬譲渡センターを東京の世田谷区にオープンした。保護犬の常設譲渡センターは広島市と神奈川県藤沢市の湘南譲渡センターに次いで全国で3ケ所目である。ピースワンコ・ジャパンプロジェクト(以下ピースワンコ)は2016年4月に広島県内の殺処分対象の犬の全頭引き取りを開始。同年には4人組ロックバンド「SEKAI NO OWARI」と動物殺処分ゼロプロジェクト「ブレーメン」をスタートし、それ以前から「24時間テレビ」で殺処分寸前の犬が災害救助犬になるまでの再現VTRの放映、ピースワンコ応援団長にドジャースのマエケンこと前田健太投手が就任、「天才!志村どうぶつ園」ぺこ&りゅうちぇるの捨て犬部プロジェクトなど精力的な活動は、今迄「保護犬」という存在に関心の薄かった人たちへの認知度のアップに大きく貢献した。

母体であるピースウィンズ・ジャパンは日本発祥のNGOで、1996年からこれまで世界28の国と地域で、紛争時や災害時に緊急人道支援のプロフェッショナルとして活動してきた。

その豊富な経験を生かし、人と犬の助け合いを通じた地域の活性化を目指して運営するプロジェクトがピースワンコだ世田谷にある譲渡センターを訪ね、ピースワンコ・ジャパンプロジェクトリーダーの大西純子さんに活動の目的や今後の方向性などをお伺いしました。

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まず、東京の世田谷に保護犬の譲渡センターをオープンした理由などをお聞かせください。

大西「東京などの都市部は保護犬に関しての理解や認知度が比較的高く、地方で保護された犬を理解のある飼い主さんに譲渡するという流れが元々東京にはありました。保護犬に興味がある、保護犬を迎えたいという人がいつでも気軽に来れる場所。そういった場所が常設であれば、今までちょっと敷居が高くて保護犬を迎えることを諦めていた人も、保護犬を迎えることが出来るようになります。それにピースワンコを支援してくださっている方が多く住んでいらっしゃる地域ということもあり、世田谷を選びました。」

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こちらに来て驚いたのですが、隣は動物病院で外見は「犬の譲渡センター」というよりもトリミングサロンのようですね。中には受付のカウンターもあって、犬の鳴き声も臭いもしませんし、犬が入っている小さなケージも見当たりません、動物保護団体のシェルターとは大きく違う様ですが。

大西「はい、住宅地の中にあるので臭いや騒音対策は万全にしています。獣看護師やドッグトレーナーが常勤していますので、躾もしっかり行っています。ここには犬が中で充分動けるような個室が8部屋あり、今日は5頭います。」

▲この日いたのは成ちゃん、タミーくん、くろたくん、チェリーちゃん、友美ちゃん。

大西「来られる方は保護犬を迎えられるお客様で、私達は接客をするサービス業ですから、接客用のカウンターがあるのは当然だと思います。ここにいる犬達は広島から連れてきていますので、都会暮らしが苦にならないよう14回のお散歩をしていますし、偶然ですが隣が動物病院だったのも、犬達の健康管理に適しています。さらに愛護センター出身の犬を譲渡する際には飼い主さんに避妊・去勢手術を推奨しています。ただし、避妊・去勢手術のメリットだけでなくデメリットもお伝えして。その上で、飼い主さんご自身に判断していただくというのが、私たちのスタンスです。」

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ピースワンコは保護活動を始めてまだ5年ですが、後発ながらこれだけ活動が注目され続ける保護団体は他に例がないように感じられます。ピースワンコの活動の原動力はどこにあるのでしょうか。

▲災害救助のトレーニングをする大西さん

大西「ご存知のようにピースワンコは、紛争地や災害被災地での人道支援を目的とした特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)が経営母体となっております。保護犬とのかかわりも、被災地で活動する災害救助犬の育成をする際、広島の動物愛護センターから殺処分対象の仔犬を譲り受けたことがきっかけでした。そのPWJで20年間積み上げてきている活動の経験が、ピースワンコにも生かされています。先程の犬の臭いがしないというのも、難民キャンプでの衛生管理から得た知恵です。」

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そういった蓄積されたノウハウがいろいろなプロジェクトを形にして実現していくのですね。その1つとして、広島の神石高原町と一緒に行っているふるさと納税のプロジェクトなど、お金を生み出す仕組みに繋がっているのですね。

大西「例えばピースワンコが保護した犬をきちんと飼育するために必要な費用は、1頭当たり年間最低15万円程です。今現在900頭を超えていますので、それだけで13500万円2016年度の犬の保護事業にかける予算は51千万円に上ります。勿論、スタッフの人件費も含まれます。無謀だと心配される方もいますが、PWJでは過去にNGO・外務省・経団連による国際人道支援組織ジャパン・プラットフォームという組織を構築しました。海外には動物保護で100億円を超える資金調達をしている組織もあります。組織の運営にはお金がかかりますので、資金調達の手段としてのお金を生み出す仕組みが必要不可欠なのです。

私達は広島を1つのケースモデルにしたいと考えています。そして2020年までに全国的に犬猫の殺処分をゼロにすること、まずそこが大きな目標です。その目標を達成するには決してピースワンコだけの力で成し遂げられるものではありません。行政との協力関係、他の保護団体との連携、そして広く多くの方々からの支持も必要となります。」

大西「現在、猫に関しても目指すところが同じ団体とは今後も積極的に連携していきたいと思っています。2月1日にはそういった団体の様々なチャレンジを応援することを目的に、助成事業も開始しました。」

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なるほど、ピースワンコはしっかりとした事業計画に基づいて運営されている訳ですね。他にも今後検討されているプロジェクトはありますでしょうか。

▲1歳の成ちゃん。譲渡対象の若い犬たち。近寄っても全く吠えず、人馴れなどのトレーニングされとても良い状態だ。

大西「はい、研究段階ですがアニマルウェルフェアの1つのプロジェクトとして、里守り犬を復活させようというのがあります。近年増えすぎて問題となっているサルやイノシシ、シカによる農作物被害対策として、里を守る為に犬を使うものです。驚くことに今広島県だけでもシカが毎年5千頭駆除されています。昔は犬が山と人里の境界線を守っていたのですが、動物愛護法によって犬は鎖に繋がれていなければならないとなって、その境界線が無くなってしまったのですね。それでサルやイノシシ、シカが人里に下りてくるようになってしまった。だったら里守り犬を復活させよう。それも保護犬を訓練して、という計画です。国内外のそういった研究をしている専門家と今春の実行に向けての検討を始めています。」

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「アニマルウェルフェア」という言葉が登場しましたが、昨年滝川クリステルさんの一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサブルとの共催でアニマル・ウェルフェア・サミットを開催されていますね。

大西「はい、当初はこのサミットを開催するにあたり、「アニマルウェルフェア」に変わる日本の言葉を探したのですが、日本語にはアニマルウェルフェアを表す言葉がありませんでした。動物愛護という言葉は動物をかわいがるという意味合いもあり、情緒的で曖昧な日本独特の言葉なので、動物の権利自由を唱えるアニマルウェルフェアとは違います。動物福祉でもなく保護でもない。結局、アニマルウェルフェアのまま使ったのですが、一般的になじみの少ない言葉をマスコミに取り上げていただいたおかげで、反って宣伝効果が上がり、アニマルウェルフェアの言葉が広く知られる結果となりました。」

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日本国内にとどまらず世界が活動範囲なので大変お忙しいと思いますが、今後のピースワンコとしての課題というか方向性を教えていただけますでしょうか。

大西「人と動物が共生できる社会を作る事がピースワンコの究極の使命であり、それに伴っての地域社会の活性化も重要な課題です。その為には沢山の方々の協力や理解が必要ですし、人材の育成も必要です。昨年、「ピースワンコPRODOGスクール」を開校しました。犬に関する正しい知識と高い専門性を持ったトレーナーの育成を目指す学校です。世界水準の教育内容、第一線のプロのドッグトレーナーを欧米から招き、最先端の知見とノウハウを伝授してもらえます。受講生は保護施設で実務を学べるし、譲渡会にも参加してもらう。授業のない週末などにピースワンコの施設でアルバイトも出来ます。ドイツには商工会が認定しているドッグトレーナー養成学校もあるんですよ。

この活動にフレッシュな人材や組織を巻き込んでいくような仕組み作りも大切だと思います。先程お話しした通り、全国各地で奮闘している保護団体と共同事業を組んでその資金を提供したり、ピースワンコで育った人材に「のれん分け」のような形で起業を促したり、ソーシャルビジネスとして殺処分ゼロに挑戦しやすい環境を整える。様々なムーブメントを起こすことによって、保護犬猫の新しい流通経路を作っていけると考えています。

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ピースワンコが他の動物保護団体と大きく違うのは、そもそも国内外の災害被災地での人道支援を目的とした災害救助犬の育成をすることから始まっているからかもしれない。大西純子さんは海外でのあらゆるケースを文献から学び、専門家とのコミュニュケーションを直接行うことで、さらにそれを日本国内で生かしたいとスタートしたのが犬の支援であり、実際にたった5年で、財源確保を含め、事業として一歩踏み込んだ動物保護を行った団体は他にあるだろうか?この様な常設譲渡施設が日本にできたことも大きな変化だ。

宗教の違いと同じ様に、様々な考えが世の中にはある。どれも話を聞けば納得することはあるものの、絶対的な「正解」がないのなら、それぞれの保護団体のやり方を尊重し合い、認め合いながら、目指すものは何かを考えていかなければならないのではないかと思う。

様々な意見を踏まえた上で、大西さんは今後も日本国内で殺処分ゼロを目指すため、他団体と手を取り合い、共同事業を行いたいと話していたのが印象的であった。

まだ日本では新しいピースワンコのモデルケース。日本の「動物」に関する考え方にも新しい風を吹き込んでいる。

東京犬猫日和

Writer:Osamu Tetsuiwa

Correction:Emi Sekiguchi

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