【動物に優しい心を持つ子供は人にも優しくなれる。一人でも多くの子供たちに動物を通して「優しい心」を育てる活動を続けていきたい】

柴内裕子獣医師(公益社団法人日本動物病院協会相談役赤坂動物病院総院長)×千葉市動物保護指導センター

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千葉市動物保護指導センター公益社団法人日本動物病院協会(以降JAHA)による初めての試みとして、千葉市立花園小学校にて動物愛護教室が行われた。

千葉市は平成27年度から犬も猫も殺処分ゼロを達成、千葉市はボランティアさんとも積極的に協力し合い殺処分ゼロを目指した。しかし、本当に目指しているのは「適正飼養100%」だ。

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千葉市動物保護指導センター大友所長は、センターに持ち込まれる犬猫を直接管理している立場から、千葉市での適正飼養を強く訴えている。

大友「犬も猫も安心できる環境で、ちゃんと食事やその他の世話をしてもらえる「適正な飼養」が大事です。それが100%になれば、もっと人も動物たちも幸せに暮らせる社会になる。運動をさせてもらえず閉じ込められた犬、食事も与えられずネグレクトの状態の犬や猫。虐待されている犬や猫、怪我や病気を放置されている犬や猫。不適正な飼養されている犬や猫がいる限り、施設が引き受けなければならない命を減らすことができない。

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その大友所長の熱い思いをよく知る獣医師・ドッグトレーナー・千葉県動物愛護推進員・JAHA会員の千田純子獣医師から、小学校の動物愛護教室(動物介在教育AAEAnimal Assisted Education)を市と共同で行いたいと大友所長に提案があり、千葉市動物保護指導センターとしても実施するからには安定性、継続性のある事業にしたいと考え、千葉市とJAHAの協働事業という形で第1回千葉市動物愛護教室の実現となった。

JAHAは動物病院を核とした地域への社会活動を推進する団体で、CAPP活動(Companion Animal Partnership Program 人と動物のふれあい活動)と称して、1986年5月から30年間もの間、全国各地の医療施設や高齢者施設、小学校などの児童関連施設、心身障害者(児)施設などへ、飼い主が犬や猫を連れて活動を行っているアニマルセラピーのエキスパート

そのJAHAと、熱い思いを抱く千葉市動物保護指導センターがタッグを組んだ。

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取材当日、花園小学校の体育館において、小学6年生を対象に、まずはセンター職員、加曽利主査による「人と動物の共生を目指して」の講義が20分ほど行われた。

続いて、JAHAよりCAPP活動において多くの実績がある柴内裕子獣医師と愛犬ピーター(トイプードル)、総勢38名の認定ボランティアスタッフと18頭のCAPP犬が参加して、動物介在教育がスタート。

小学6年生120名以上の児童たちに、正しい動物とのふれあい方や命の大切さを楽しく学んでもらうための工夫が凝らされており、児童たちは初めて見る大きな犬や様々な犬種がいること、犬本来の役割なども知り、終始笑顔が絶えない時間になった。

実際に、CAPP犬と触れ合うなどの体験も行われ、事前のアンケートでは「犬が怖い」と言っていた児童が10数名いたのだが、最後は、誰ひとり犬が怖いといわなくなっていた。

日本国内では、立教女学院小学校などが積極的に『動物介在教育』を取り入れているが、まだまだ深く浸透していないのが現状。しかし「動物介在教育」が子どもたちに与えるものは非常に大きい。

教育、学習の場面で動物を介在させ、子どもたちの精神面、学習環境などに好影響を与えることにより、様々な成果を上げる。子どもたちに「いのち」の大切さを教えることは、将来日本での動物福祉向上につながるのだ。

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30年以上もの長きにわたり『CAPP活動』の先頭に立ってこられた柴内裕子獣医師に動物愛護教室終了後、お話を伺いました。

《柴内先生が『CAPP活動』を始められたきっかけや活動内容について教えてください。》

柴内「ヒューマン・アニマル・ボンドHuman Animal Bond)という理念やそれに基づいた活動が欧米にはございます。日本語にすると『人と動物との絆・ふれあい活動』ですね。この理念に基づいたボランティア活動を日本でも実現したいと願い、私が日本動物病院協会(JAHA 現公益社団法人日本動物病院協会)の第4代会長であった1986年に『CAPP活動』をスタートさせました。

具体的には動物介在というと精神面とリハビリテーションの手助けをする一般的にアニマルセラピーと呼ばれる『動物介在活動AAA、また人の病気の治療行為として動物が介在しサポートを行う『動物介在療法AAT、そして子供達の道徳的・精神的・人格的な成長を促すことを目的とする『動物介在教育AAEと3つの活動に分かれています。」

柴内「CAPP活動がスタートした1986年5月から2016年3月までの30年に及ぶ活動実績は、延べにして全国各地の施設訪問回数18,281回、参加獣医師数25,978人、参加ボランティア139,697人、参加動物は犬=104,984頭、猫=21,805頭、その他=7,105頭となりました。

その間に事故の発生やアレルギーの発症などの問題は一度もなく、世界に類を見ない社会貢献活動だと評価されています。」

柴内「長い間にわたり、様々な方面の方々からの協力をいただいてきました。特にボランティアさんにおいては意識を常に高く持っていなければ続けることができません。」

柴内「ボランティアさんが新しいボランティアさんを大切に育てていくことが必要で、今や訪問先に合わせたレベルで学習したボランティアさんと動物たちが全国に約80のチームを作り、常時活動をするまでになりました。ボランティアさんの絶え間ない努力のおかげでこの活動は成り立っており、常に感謝の気持ちで一杯です。

今回のこの動物愛護教室での大きな意義は千葉市動物保護指導センターという行政と一体となっての動物介在教育(AAE)を行うことが出来たという事です。今後は千葉市のみならず、全国にこのような官民一体の協力体制を広げていきたいと考えています。」

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《今の日本における『動物福祉』に関して先生はどのように考えていらっしゃいますか?》

柴内「この活動を始めた頃と比べると「動物福祉」という言葉をよく聞くようになりました。それだけ皆さんが関心を持っていただいているということは大変喜ばしいことだと思います。同時に「殺処分ゼロ」という言葉をよく耳にするようになりましたが、これはいけません。私は以前より「殺処分」という言葉自体使ってはいけないと提唱し続けてきました。こんな恐ろしい言葉は決して子どもたちに聞かせるべきではありません。

「殺す」という言葉ですら残酷なのに、「処分」なんて動物たちの命を粗大ごみ扱いにしているみたいで、実におぞましく思います。このような言葉は今日のような小学校の講演では勿論使えません。ガス室で苦しむ動物の残酷な映像なんて決して子供達には見せてはいけません。これを見せることが教育だと勘違いしてる方がいますが、大きな間違いです。残酷な映像から感じるのは恐怖や苦痛であり、子供達には悪い刺激を与えます。動物に対して嫌悪感を抱いてしまう事もあります

子供の成長期においては優しく動物と五感でふれあうことが情操教育に一番大切なことで、「優しい心」を育てます。「殺処分」はいわゆる行政の言葉ですが、この認識から変えていくべきだと考えております。

柴内「先日、環境省の方にお話をしましたが、「殺処分ゼロ」をゴールにしてしまう事によって様々な弊害が起こっています。それは保護の仕方が変わってきてしまったり、行政では処分をしないということになってしまうと、これを誰かにお願いするのかという大きな問題が起こっています。目指すはゼロですが、やはり現場の事も考えた政策でなければいけないと思います。」

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《これからの活動に向けての取り組みを教えてください。》

柴内「動物たちと共に幸せに暮らせる社会を作っていかなければなりません。それは人類の未来の為でもあるのです。考えてみて下さい、動物と触れ合える環境がなくなった子供たちが社会を支えるようになったらどんな世の中になるのか。専門家も警鐘を鳴らしています。動物に優しい心を持つ子供は人にも優しくなれます。一人でも多くの子供たちに動物を通して「優しい心」を育てる活動を続けていきたいと思います。」

柴内「また、高齢者が安心して伴侶動物と暮らしていける施設を作りたいと思っています。どんなに動物が好きでも、高齢者にとっては先立つ不安を抱え動物と暮らすことを諦める方が多々おられるのが現状です。自分が先立っても、残された伴侶動物を安心して任せられるシステム作りをしています。実は、アメリカにタイガープレイスという動物と生涯住める高齢者施設があります。大学のキャンパス内にある施設で医学部と獣医学部がケアをしています。ここには伴侶動物が高齢者と共に支え合って穏やかな人生のフィナーレを過ごす姿がありました。まずはモデルケースとなる最高の施設を日本に作る予定です。

来年度はCAPP活動を通じて伴侶動物をもっと社会に認めてもらいたいと思っています。その為にCAPP犬を公共施設やホテルやホールなどに入れる許可を取っていこうと思います。人に優しい良い犬をたくさんの人に見てもらうことによって、犬を飼っている人やこれから犬を飼う人たちに犬のしつけの重要性を知って貰うことにも繋がります。」

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編集後記:

柴内先生は、人と動物の共生にかける情熱を持った日本最古の女性獣医師である一方、人としてのやさしさ、温かさを大切にされている大変魅力的な方でした。

80歳を超えてなお、立ち姿も美しく、動物介在を必要とする場所に愛犬とともに足を運び、病院では診療もこなすというスーパーウーマン。「人が幸せでなければ動物も植物も幸せにしてあげられない。」とおっしゃられていたのもまた心に強く響きました。

犬においては世界では非公認の犬種も含めると、約800種類もの犬種が存在していると言われています。 人間が長い年月をかけ、品種改良を重ねてきた結果生まれ、人が作ってきた歴史があり、野山で生活するよりも人と共に生きることを選んだ「犬」という動物は、人が望むように、人と密着した生活を送るようになり、人から愛されるようになりました。人とともに生きてきた犬を飼育放棄した途端、その犬は命の危険にさらされます。幼少期から命の大切さに触れ、正しい触れ合い方を知ることで、将来、無責任な飼育を防いだり、心のケアにもつながる動物介在教育の現場は、今後、日本の将来を担う子ども達に、大変重要な鍵となっていくことでしょう。

東京犬猫日和

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▪️柴内裕子(しばない ひろこ)http://www.akasaka-ah.com/JA/

1935年東京生まれ。 1959年、日本大学農獣医学部獣医学科卒業後、同付属家畜病院研究員となり、1961年よりアイソトープ研究室助手。

1963年、東京赤坂に赤坂獣医科病院(現赤坂動物病院)を開設し、院長となる。
1985年、日本動物病院協会第4代会長就任。
1987年、社団法人日本動物病院福祉協会HAB常任アドバイザー相談役。日本ヒューマンアニマルボンド学会専務理事。 CAPP活動(人と動物とのふれあい活動)の実践と啓発、ヒューマンアニマルボンドとアニマルアシステッドセラピー関連の講演、コンパニオンアニマルの習性行動学に基づいたしつけかたの講演などで全国を駆け回る日々。
NHKペット関連コメンテーター、NHKテレビ・ラジオペット健康相談担当。人と動物が幸せに暮らす社会づくりがライフワーク。 著書に『キャットケアー』監修、『猫は友達』『犬と暮らす』各テキスト(NHK出版)、『これからの犬の育て方としつけ方』(講談社)、『Dog犬の気持ちがわかる本』監修(ナツメ社)、『新しい犬のしつけ方』(高橋書店)、『子犬がわが家にやってくる』(講談社)ほか、岩波ブックレットNo.568『都会で犬や猫と暮らす』(岩波書店)他多数。

▪️千田純子(せんだ じゅんこ)http://profile.ne.jp/pf/with-paw-senda/

和歌山県生れ。南海電鉄みさき公園動物園に勤務、退社後結婚。家庭犬のしつけ教室を開催。家庭犬の問題行動の改善、トレーニングに従事し数千頭の家庭犬のトレーニングに関わり、多くの飼い主からの信頼を得ている。動物介在活動や、セラピー犬トレーニング等を行う。大阪府立大学農学部獣医学科獣医薬理学講座 修士課程修了 獣医師

千田アニマルクリニック・ペット行動コンサルタントSENDA、専門学校ちば愛犬動物フラワー学園 非常勤講師、ペットドッグ認定トレーナー(CPDT-KA)、バッチ財団登録プラクティショナー、バッチ財団登録アニマルプラクティショナー、JAHA 認定CAPPパートナーズ、J-HABSマスターインストラクターひきこもり支援相談士
認定心理士、千葉県動物愛護推進員。

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Writer:Osamu Tetsuiwa

Editor:Emi Sekiguchi


【協力】
公益社団法人日本動物病院協会 http://www.jaha.or.jp

千葉市動物保護指導センター  http://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/kenkou/seik...


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