【『もう一度愛犬を走らせてあげたい』飼い主の願いを叶える】
〜 「ポチの車イス」 木口 光儀〜

今や犬の寿命も伸びて15歳以上の犬も珍しくなく、人も犬も高齢化の時代。しかしながら病気や事故、加齢などにより、足の不自由な愛犬を抱える飼い主さんも少なくない。自由に動けない日々の生活は飼い主さんにとっても犬にとってもストレスの原因となる。何とかまた愛犬が自由に大地を走る姿が見たいと願うのは飼い主としての当然の想い。

そんな飼い主の願いを叶えるため、犬用車椅子をひとり黙々と作り続ける男がいた。

木口光儀(きぐち みつよし)さん58歳。

木口さんは知る人ぞ知る、神奈川県厚木市の犬用車椅子製作販売のパイオニア『ポチの車イス』の代表である。

取材当日も、2カ月前には元気にお散歩が出来ていた変性性脊髄症(DM)のコーギーが木口さんの製作する車イス求めて遠方から訪れた。

▲13歳「あずき」ちゃん

シニアさんですが、「歩けるなら歩けたほうがいいものね!」飼い主さんの想いが伝わってくる。来店当日、サイズを計測し、すぐに製作に取り掛かる木口さん。あずきちゃん(中型犬)の車イスは約2時間ほどで完成した。

世界でたった1つの車イス。サイズもぴったり。

車イスを装着して歩くあずきちゃんをみて嬉しそうな飼い主さんの笑顔。

あずきちゃんの誇らしい後ろ姿。なんだかとても幸せな光景だ。

コーギーのあずきちゃんの次に訪れたのは、ほんの2週間前にはドッグランを走り回り、プールでも泳ぎ回っていたというゴールデンレトリバーの「まこと」くん、まだ3歳という若さ。

まことくんはこれまで、定期的に病院にも通い検査を受けていたという。

しかし、異変の起こる少し前から飼い主さんは「何かおかしいかもしれない」と感じたという。何度か、「先生、何かおかしいかも。」と訴えては、レントゲンや血液検査などを行ったが異常は見つからなかった。

それがある日突然、後ろ足に異変が現れた。

急いで大学病院にまことくんを連れて行き、MRI、CTを撮影、そこでやっと「脊髄の未分化肉腫」と診断されたのだ。獣医師の予定を前倒しし、緊急手術が行われた。未分化肉腫は極めて悪性度の高い癌。

術後の跡が痛々しい。大手術だった。

「ボク....どうしたんだろう」

急に歩けなくなり、まことくんもまだ戸惑っている状況だった。待っている間も前足をジタバタして動きたいという気持ちが溢れていた。飼い主さんはまことくんのその気持ちに応えたいと、木口さんの元にやってきた。

採寸用の測定車にのせられたまことくん。自分の足で立ちあがるとまことくんの表情が変わった。

まことくんは、とても重い病気になってしまいましたが、車イスを使えば、自分で体を起こし、歩くことができます。寝たきりだと使わない筋力はすぐに落ちてしまう。

元々、元気いっぱいのまことくん。また飼い主さんと一緒にお外をお散歩できるね!

木口さんの車イスはなんといっても軽い。飼い主さんにも装着する動物にも負担が少ないのが特長だ。製作する車イスは「ポチの車イス」というだけあり、多くが犬だが、犬に限らず相談に応じている。

▲猫やうさぎの車イス製作も行ってきた。

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製作を終えた木口さんに、お話を伺ってきました。

「犬用の車イスを作るようになったきっかけをお聞かせください。」

木口「元々、人間用の装具屋だったんです。あるとき近所のダックスがヘルニアで歩けなくなって、車輪付きの歩行器を作ってあげたんです。その時のダックスと飼い主さんの喜ぶ顔が忘れられなくて、足の不自由な犬を見つけては車イスを作ってあげていました。当初はお年寄りの使う歩行器を解体して車輪を使っていました。それが巷で評判となるとあちらこちらから注文が入るようになったんです。お陰で家の中は解体した歩行器の屑が山になって(笑)、こんなに必要としている飼い主さんが多いなら、商売としてもやっていけるんじゃないかと考えました。それで奥さんの許しも得ずに人用の装具屋を辞めちゃって、犬の車イス屋を始めました。」

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「犬用の車イスを作っていく上での苦労話などお聞かせください。」

木口「それまでは犬用の車イスはスチールパイプ製かプラスチックのパイプ製がほとんどでした。スチール製なんかだと相当重くなっちゃうんですね。軽くてしなやかで強度もそこそこある素材。そこで行きついたのが軽いアルミパイプでした。ただ問題もあって、思い通りに曲げることが難しい。試行錯誤を続けて今の形になるまで2年ほどかかりました。気が付くと試作品の山はトラック1台分にもなり、さすがに奥さんも《もうやめてー》と、悲鳴をあげていました(笑)。」

▲こちらは視覚障害、痴呆症用の4輪車。木口さんのつくる車イスは海や川で遊んでも大丈夫だから嬉しい!

木口さんの作る車イスは体重6キロのダックス用で142グラム(フレームのみ)と驚くほど軽い、大型犬用のフレームも1キロに満たない。作業場の外には、ポチの車イスを作った飼い主さんが「もう必要ないから」「必要な子に寄付してあげてください」と置いていかれた他社の車イスが積んであったが、手に持ってみると、木口さんの車イスに比べて倍以上の重さがあった。

車イスの寄付といっても、それぞれがその子に合わせて製作してあるものばかりなので、実際には、なかなか難しいのが現実のようだ。

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「他にもポチの車イスの特徴がありましたら教えてください。」

木口「犬が自由に走り回るには何よりも軽さが重要です。そしてタイヤは転びにくく小回りが効くように、ハの字になっています。壊れやすい部分に改良を重ねて、今の基本型が出来上がりました。一台一台犬に合わせての手作りですから、以前は一台作るのに3時間以上かかりました。丸一日にかけて一台とか(笑)、今では1時間半位で出来ちゃいます。出来上がりまで中で待っていただいてもいいし、近くに人気の犬連れスポットの宮ケ瀬ダムや牧場もありますので、製作中に遊びに行かれて夕方に戻って来られる方も結構いらっしゃいます。クオリティが高いのに即日納品。また、その後の犬の状態に合わせて2輪から4輪にカスタムメイドする事も出来ます。あと値段が安いことですかね。従来の既製品の犬用車イスは高いのは10万円以上しますが、うちは小型犬で2万円台から超大型犬でも6万円ちょっとです。」

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「車イスを作る犬種に偏りはありますか?」

木口「以前多かったのは椎間板ヘルニアのダックスですね。犬種改良が進んだのか最近はだいぶ少なくなりました。今目立って多いのはコーギーですね。変性性脊髄症(DM)というやつで、全体の5割くらいを占めています。股関節形成不全のラブラドールやシェパード、ゴールデンは癌、交通事故に遭うのは柴犬が多い。犬種は本当に様々ですが、歩けなくなった原因が犬種によって偏っているのがわかります。

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「ポチの車イスの今後の展望を教えてください。」

木口「人の装身具を作っていた経験から犬の義足やコルセットを作ろうと思った時期もありました。ところが犬の車イスは遊具の扱いですが、犬の義足やコルセットは医療機器で薬事法の対象となってしまうんですね。車イスも医療機器としてはいけないという事です。それを聞いてホームページにこのHPは薬事法上、農林水産省 消費・安全局畜水産安全管理課薬事監視指導班、神奈川県畜産課安全管理班のご指導の下掲示させていただいています。と一筆加えました。」

物づくりの職人さんと聞くと、とにかく堅気の物静かな人を連想しがちだが、木口さんは底抜けに明るくよく笑う。その人柄からか車イスを使って愛犬が走れるようになった飼い主さんからの、お礼が後を絶たない。

木口「九州の飼い主さんから焼酎、北海道からはカニ、実はうちのパンフレットも四国の飼い主さんがお礼に作ってくれたんですよ(笑)」

木口「最近は動物病院や動物関係の施設からのご紹介やご依頼も多くいただくようになりまして、人手が欲しいと思っていたところに息子が車イス作りを手伝ってくれることになりました。」と、木口さんは照れくさそうに笑った。

木口「直接工場に来れない飼い主さんには測定用車イスを送り、飼い主さんがサイズを計るという方法もあります。詳しくは『ポチの車イス』HPをご覧ください。また、大きな声では言えませんが、車イスでのリハビリ効果についてはHP上の《車イスを作るタイミングについて》をご参照にしてください。車イスを装着して愛犬が嬉しそうに走る姿を見て、泣き崩れる飼い主さんもいます。好きな仕事をして感謝されて生活が出来る。これ以上の幸せはないですね

『ポチの車イス』はこれからも沢山の愛犬家の願いを叶え続ける。


東京犬猫日和

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ペットの車イス「ポチの車イス 」木口 光儀

HP:http://www7a.biglobe.ne.jp/~potinokurumaisu/

参照:http://dog-assist.com/kaigo/kurumaisu.html

Writer: Osamu Tetsuiwa

Interviewer&Photo:Emi Sekiguchi

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