人間の色眼鏡を通さず事実を伝えていくのが使命
〜殺処分ゼロの裏側〜写真家 犬丸美絵

神奈川県動物保護センターは創立約40年にして、3年連続犬殺処分ゼロ、2年連続猫殺処分ゼロを達成。平成31年度の開設を目標に、老朽化した現在の動物保護センターを建替えるという。

その古いセンターで収容された動物達を撮影する女性カメラマンがいる。

写真家「inu*maru」こと犬丸美絵さん。

15年ほど前、老いていく自身の愛犬の表情を残すため、一眼レフを購入した事を機に、写真の世界へ。2012年より地元動物保護団体への支援をはじめ、保護犬達の写真展などを行ってきたという。犬丸さんが最初に神奈川県動物保護センターから撮影依頼を受けたのは、2015年の終わりのこと。神奈川県動物保護センターは、約40年前に犬の殺処分を目的に作られた施設で、犬殺処分数、40年前当時17.000頭あまり、これまでに10万頭以上の犬たちが処分されてきた。

殺処分をし続けた施設をきちんと遺してほしい

かつて、立ち入りも撮影も禁止だったセンターの地下室の撮影を「センター」が依頼したのだ。私たちは犬丸さんがセンターで撮影する日、同行取材をさせていただいた。

2016年10月、のどかな田園風景が広がる小高い場所に神奈川県動物保護センターがある。センターに到着し、犬丸さんと合流、センター職員に案内され撮影に取り掛かる。

最初に案内されたのはうさぎが収容されている部屋だった。

センターには犬猫だけが収容されている訳ではない。飼育放棄されたり、迷子として保護された鳥、亀、すっぽん、モルモットなどもいる。犬猫ばかりがどうしても注目を浴びてしまうが、この小動物たちも一般的なペットショップで販売され、一般家庭で飼育されていたものだと思われる。この日は、うさぎの撮影からスタートした。

犬丸さんは以前にも保護団体を通して、収容犬達の撮影を打診されたのだが、「どうしてもセンターに行く勇気が出ず断っていた」という。しかし、初めて実際に足を踏み入れ、撮影してみると、「たくさんのことを感じ、気づき、事実を伝えなければ。」と思うようになったという。

犬丸「センターに足を運べない人たちに、センターの現状を伝えたい。センターの今をのこしたい。殺処分ゼロという言葉の裏側で、人の目に触れることなく、センターで前向きに生きる子たちの存在と生きざまを表に出してあげたい。」

その思いは撮影を重ねるたびに強くなったという。

犬や猫の多頭飼育崩壊も相次いでおり、犬約60頭、猫約25匹、この日、確認しただけでもセンターの収容スペースはキャパシティーを超えているように感じられた。

雑居室の犬たちは相性を考慮され、分けて入れられるが、これだけの頭数を職員が世話するのだから、当然のことながら世話が行き届かない部分も出てくるかもしれない。

殺処分ゼロのセンターで生きるということ

この状態で2年以上も、センターで過ごしている犬たちもいる。この日、雑居室から個室に変更になった犬がいた。猟犬系雑種の大型犬だ。この子は同じ雑居室にいた大型犬と喧嘩になり、深く両脇腹を怪我してしまった。

痛むのか、身動き一つせずうずくまっていたが、数人で抱き起こし、咬まれないように犬の体を固定し、傷口を確認。センター獣医師が傷口の洗浄を行い、抗生剤を投与した。センターでは一般の動物病院ほどの検査や高度な治療はできないが、この子は手当が終わると傷口の痛みが多少なりとも取れたのか、このあと、立ち上がって檻から顔を覗かせた。

センターの収容室というのは特殊な環境だ。

1匹1匹、穏やかで性格も良い子であっても、突然、他の犬が群れとして生活している大部屋に連れてこられたら、他の犬と合わず、精神的に追い込まれる子もいる。飼い主に捨てられたという状況も理解しているだろう。ここで、良し悪しを問われ、犬たちは引き出してもらうのをひたすら待つしかない。

「殺処分ゼロ」の裏側。センター職員たちは、寄せられる相談の対応をしながら、センターに収容された約100頭近くの動物たちの世話に追われる。

センターの職員やボランティアの計り知れない努力の上に殺処分ゼロがある。

犬丸「行政と民間が一体になって、とてもいい関係で協力し合って殺処分ゼロのその先に向かってそれぞれが努力していること。を伝えていきたくて、「記録」として、感じて伝えるものとしてセンターに通っている」

犬丸さんも、保護活動の一端を担っているが、自宅に戻れば「自分はただの愛犬家・一飼い主」だと話す。

犬丸「センターに行くのが怖かったりという普通の部分もつい1年前まではありました。毎日身を粉にして動物を救っている方々とは少し違って、普通の飼い主さんと同じような感覚が今もあります。収容犬も保護犬も家庭犬も同じ犬です。彼らは自分の生い立ちや現状を憂うことなく受け入れます。私は人間の色眼鏡を通さず、動物達の気持ちに寄り添って、事実を伝えていくのが使命のように思っています。

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「殺処分を行わない」ということは、収容された犬猫たちは、センターからの譲渡の対象になるか、ボランティアが引き出さない限り、センターで生き続けなければならない

少しずつ「群れ」の生活に順応していくが、頭数が多ければ、毎日の散歩や十分なケアは行き届かないこともある。ケンカをしてケガをすることもある。

常時100頭近くの動物たちが収容されているセンターで、「決して幸せとはいえない」時間を過ごさなければならないのもまた現実だ。

平成31年度の開設を目標に、動物保護センターが建替えられ「人と動物との調和のとれた共生と殺処分ゼロの取り組み」を盛り込み、官民一体となり、本気で取り組むと話した神奈川県動物保護センター所長 橋爪氏。殺処分ゼロの後の問題も重要課題である。

犬丸さんの撮影はただ、「可哀想な犬たちを撮る」というものとは違う。

写真提供:©神奈川県動物保護センター©inu*maru

撮影された写真を見ると、それらが感じられるだろう。1頭1頭、それぞれの表情、しぐさ。

撮影に来る犬丸さんや職員、ボランティアさんに甘える姿....どの子もみんな、同じ命。

普段、犬丸さんは、葉山・三浦・鎌倉・湘南の自然豊かな環境を生かしたロケーション撮影を得意としている。

犬丸さんの撮影する写真は、どれもどこか優しい空気が流れている。

犬丸「センターに収容された犬も、家庭で可愛がられている犬も、どんな犬もみな変わりなく同じ、ひとりの犬。」

これからも、「ありのままの姿」を撮り続けていきたいと話してくれた犬丸さん。

犬たちはいつも前を向いている。

東京犬猫日和

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写真家:犬丸美絵

http://shop.inu-maru.com/

http://ameblo.jp/inumaruphotography/

協力:神奈川県動物保護センター

http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f80192/

Writer:Emi Sekiguchi

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